近年は、高温傾向が続く夏(晩春~仲秋)の時期を中心に、大雨・豪雨災害が増加し、浸水対策は企業にとっても喫緊の課題となっています。
特に、生産設備、原材料、製品といった企業活動の根幹資産を「工場・倉庫」に抱える製造業や運輸業に属する企業にとって、その重要性は極めて高く、ひとたび浸水被害に遭えば、設備故障による生産ラインの停止、製品の汚損・破損、データ損失など、甚大な経済的損失に直結します。
他にも、サプライチェーンの寸断や顧客への供給責任が果たせなくなる等により、企業活動全体に深刻な影響を及ぼし、間接的に企業イメージの低下にも繋がりかねません。
不確実性が増す企業経営環境の中、事業継続計画(BCP)の観点からも、浸水対策は必要不可欠なものと言えます。
そこで、今回のコラムでは、「工場・倉庫」廻りにフォーカスして、浸水対策のポイントやリアルなお客様の声などを紹介していきます。
製造業・運輸業のBCP策定状況と重視しているリスク
浸水対策の話に入る前に、
最初に「工場・倉庫」を保有することの多い製造業・運輸業のBCP策定状況と、どのようなリスクを重視して対策を行っているか?を確認しておきたいと思います。
内閣府の「令和5年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」によると、「運輸業・郵便業」のBCP策定状況は、「金融・保険業」に次ぐ2番目、「製造業」は4番目となっています。
* 回答数30社以上で連続性のある業種の中での比較
内閣府「令和5年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」をもとにKTX作成
また、重視しているリスクは何か?を聞く設問で、『洪水(津波以外)』を回答した割合は、運輸業・郵便業で「地震」「感染症」の次に高く、製造業では「地震」「火災・爆発」「感染症」の次となっています。
「運輸業・郵便業」「製造業」に属する企業は、BCP策定に積極的で、かつ「洪水(≒浸水)」を重大リスクとして認識していることが分かります。
とはいえ、90%以上が、「地震」を重大リスクと認識しているのに対し、「洪水」は50%強に過ぎません。
浸水被害は立地に大きく依拠するとは言え、内閣府の別の資料によると「平成23年から令和2年までの10年間に、全国の市町村の約98%で1回以上の水害が発生」とあるのを踏まえると、各企業でも、さらにリスク意識と、その備えを高めていく必要のある災害ではないか?と考えられます。
工場や倉庫の具体的な浸水対策とは?
それでは、ここから本題となる工場や倉庫の浸水対策について、具体的に話を進めていきたいと思います。
工場・倉庫を守る浸水対策は、大きく次の2つに分類できます。
- 建物内や(建物外)設備への水の侵入を防ぐ対策
- 万が一、浸水した場合の被害を軽減する対策
建物内や(建物外)設備への水の侵入を防ぐ対策
浸水そのものを防ぐための物理的な対策のことで、皆様が一般的に思い浮かべるのは、主としてこちらの対策だと思われます。
主な対策例としては、次のようなものがあります。
・建物(設備)開口部の防御
工場や倉庫の出入口、搬入口、地下への階段など、水の侵入経路となる開口部に「止水板」「防水扉」「防水シャッター」などを設置します。
簡易的な対策として、「土のう」や「水のう」を用意して対応する場合もあります。
浸水被害を防ぐ最も基本の対策です。
・建屋周辺の防御
敷地全体や建屋の周囲に、水の侵入を防ぐための「防水壁」や「盛り土」などを恒久的に設置します。
開口部の防御より抜本的な対策となり得ますが、大規模な工事と高額の費用を伴うことがほとんどです。
・排水設備の強化・メンテナンス
浸水そのものの直接防御ではなく、排水機能を強化することも有効な浸水対策の一つです。
「排水ポンプの設置」や「逆流防止弁の導入」など設備導入を伴うもののほか、敷地内の「排水溝」や「雨水枡」の定期的な清掃・メンテナンスなどもこれに含まれます。
万が一、浸水した場合の被害を軽減する対策
浸水被害を完全に防ぐことが困難な場合でも、経済的被害を最小限に抑えるための対策です。
具体的な対策例を聞いて、すぐには浸水対策と結びつかないものも多いかも知れませんが、事業継続の視点では欠かせないものです。
・重要設備・保管物の高所配置
生産設備、電気・電源設備、高価な原材料・製品などは、浸水しやすい低層階や床に直接置かず、2階以上の高所に配置・保管する、棚やパレットに乗せるといった対策を講じます。
基本となる対策ですが、建物の構造や業務オペレーション上、対象物や高さ対応が限定される場合がほとんどです。
・非常用電源の確保
浸水被害に限らず災害時にも最低限の稼働ができるようにしておくことは、対策項目の一つです。
非常用発電機やUPS(無停電電源装置)を導入し、重要な設備や照明、通信機器などを稼働できるようにしておきます。
浸水対策の観点で言えば、これらの機材は、被害を受けにくい高所や防水対策が施された場所に設置することが重要です。
・データバックアップとオフサイト管理
生産設備、原材料、製品などの物理的な資産以上に、現代のビジネスでは、データが重要な価値を持つことがあります。
生産データ、設計図面、顧客情報などの重要なデータは、定期的にバックアップを取り、遠隔地のサーバーやクラウドストレージなど、自社施設とは別の場所に保管しておくことも事業継続に必要な対策です。
・浸水被害を想定したBCPの策定と定着
地震や火災などに限らず、浸水被害の発生も想定し、事業継続のための具体的な行動計画を策定しておくことは、経営上、欠かせない対策です。
さらに、計画の策定だけではなく、従業員への周知と定期的な訓練を行うことで、ふだんの見直しと磨き上げの機会を持つことが、BCP運用の重点項目です。
工場・倉庫ならではの止水製品選びのポイント
では、浸水対策の最も基本の対策と言える「建物(設備)開口部の防御」について、工場・倉庫ならではのポイントとは何でしょうか?
ここからは、その点にフォーカスして、深堀を進めていきたいと思います。
【ポイント1】企業の根幹資産を守る
当コラム冒頭で述べたように、「工場・倉庫」には、生産設備、原材料、製品といった企業活動の根幹資産が収納されていることがほとんどです。
当然、これら根幹資産が災害被害を受ければ、企業活動の継続に甚大な支障をきたします。
被害の程度によっては、企業の存続自体が危ぶまれることもあるかもしれません。
この点を踏まえると …例えば、コスト的には「土のう」などに優位性があるとしても… まずは、守るべき資産価値を適切に試算し、その価値に見合った製品を選ぶようにすることが基本と言えるでしょう。
【ポイント2】開口部の形状は千差万別
一口に「工場・倉庫」と言っても、その建屋は、取り扱う製品や物品によって大きく異なるため、一軒家や居住用マンションとは別次元に、様々な構造・形状のものが存在します。
加えて、同じ建屋でも、「搬入口」「出入口」などそれぞれの利用用途ごとに、開口部の形が大きく異なるものが多数存在します。
このように、多様な開口部を備える工場・倉庫では、その建物・開口部にピッタリあった最適な止水ができることも、製品選びの重要なポイントです。
- 開口部にピッタリ合わせられるカスタマイズ性の高い製品を選択する
【ポイント3】広い開口部、複数の対策箇所
「工場・倉庫」の場合は、搬入口など頻繁に製品・物品を出し入れすることを前提に、開口部が広く作られていることが一般的です。
また、先ほど述べたように、様々な開口部が多数存在することも、当たり前の建物です。
このような場合、1ヵ所1ヵ所の対策(設置)に時間をとられていては、浸水が拡がるスピードに間に合わない可能性も十分考えられます。
できるだけ、短時間に、迷わずサッと必要な対策を取れる点も重視すべき項目です。
- 広くて、数多い対策箇所を簡単・スピーディに設置できる製品を選択する
【ポイント4】負荷の高い設置環境
「工場・倉庫」、特に、搬入口については、重量のある設備・資材の搬入・搬出に使われたり、場合によっては、フォークリフト・トラックなどが頻繁に出入りするような環境です。
このような場所に…例えば、複雑でメカニカルな機構を持つ製品を設置すると…故障により、イザという時に使用できなかった!という状況にも陥りかねません。
頻繁に使用される製品ではないがゆえに、故障・不具合の心配も少なく、シンプルな構造の製品を選ぶことも重要と考えられます。
- イザという時に、安心して使用できるシンプルな構造の製品を選択する
この点は、メンテナンス負荷の軽減につながるといった点でも重要になります。
お客様に聞く…浸水対策検討のきっかけと、製品選択の理由
では、実際に「工場・倉庫」を保有する企業が、浸水対策の検討を始めたきっかけは、何だったのでしょうか?
また、どのような視点が、製品選択の決め手だったのでしょうか?
最後に、当社KTXの止水板を導入いただいたお客様にお聞きした理由(リアルの声)をお届けいたします。
浸水対策の検討を始めたきっかけ
この点は、多くのお客様で、次の3つの声に集約できます。
- 実際に浸水被害があった
- 周囲が浸水し、現実問題として浸水の危機を感じた
- (本社等から)BCPによる検討指示があった
一般生活者でなく企業の場合においても、“リアルな危機感を感じるまでは…”は、ナカナカ浸水対策まで手が回らない。という企業も、現実的としては多いようです。
ただし、この時点では、すでに企業活動に影響を及ぼす被害を受けていてもおかしくありません。
浸水被害を防ぐという観点では、いかに浸水被害も網羅したBCPの策定が重要な意味をもっているか!ということが、改めてご確認いただける結果ではないでしょうか?
浸水対策製品の選択理由
こちらは …もちろん、KTX製品をご導入いただいたお客様限定という前提はありますが… 当社では、次のような声を多くお聞きしています。
- 止水性能が高い
- 間口に対する融通が利いた(細かい要望に応えられる製品)
- 設置が簡単
- 工期が短い
- 現実的な価格帯だった
実際に多くのお客様で、前章のポイントを押さえた製品選択をされていることが、実感としてお分かりいただけるものとなっているのではないでしょうか?
それ以外の理由としては「短納期」を挙げるお客様も多く、この点は、“浸水対策を始めたきっかけが危機感から…”という前述の回答と合わせ鏡のようになっているものと認識しています。
KTXの止水板を「工場・倉庫」に導入いただいた具体的な事例(一例)はこちらからご覧ください。