2025年3月26日、「日本の気候変動2025 ―大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書―」が公表されました。ニュースにも取り上げられていましたので、見聞きした方も多いのではないでしょうか?
この報告書は、気象庁と文部科学省が共同で取りまとめたもので、日本の気候変動に関する観測結果や将来予測が詳細に示されています。「平均気温の上昇」「極端な高温・大雨の増加」「雪や海への影響」など幅広い内容が示されていますが、本コラムではその中でも「大雨」の変化に注目します。
本コラムでは、法人のお客様にもわかりやすく用語や気象的背景も一緒に、止水板メーカーである当社の視点から解説していきます。今後の大雨対策や設備計画に、是非お役立てください。
「大雨」ってどれくらい?雨量と基準の目安
まずはじめに、どれくらいの雨量が「大雨」になるのでしょうか?
気象庁では「大雨」を数値ではなく「災害が発生するおそれのある雨」と定義しています。つまり「何mm以上で大雨」といった明確な数値基準はなく、その地域の地形、排水能力、都市インフラなどを考慮されたうえで「災害の可能性がある」と判断されると「大雨」と表現されます。
「では、強い雨や激しい雨ってどれくらい?」
そんな疑問も湧いてきますよね。「大雨」以外にも、気象情報でよく耳にする表現があります。次は、それらの用語についても見ていきましょう。
下記は、数値によって分類される「雨の強さ」です。
雨の強さ |
1時間の降水量 |
強い雨
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20〜30mm
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激しい雨
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30〜50mm
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非常に激しい雨
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50〜80mm
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猛烈な雨
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80mm以上
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気象庁「過去の気象データ検索」の天気概況では、降水量が30mm以上の状態を「大雨」と記述されています。
しかし、「1時間に30mm」や「50mm」と聞いても、実際にどれくらいの量なのか. . .ピンと来ない方も多いかもしれません。この「何mm」とは、雨が地面にそのまま溜まったと仮定したときの「深さ」を表します。
1時間に50mmの雨の場合
「1時間に50mmの雨」を例に、もっと具体的にイメージしてみましょう。
深さで考えるのであれば、1時間で地面から50mm=5cm(足の甲くらい)の深さまで雨水が溜まることになります。
2時間降り続けると深さは10cm…床下浸水してしまう建物も増えるでしょう。もちろん実際には状況によって異なりますので、目安として考えてみてください。
では傘をさしている場合はどうでしょうか。
傘の広さがおよそ1平方メートルとすると、その傘に1時間でバケツ50杯(=50リットル)分の水が降ってくる計算です。
同じ雨量でも、都市部など排水機能で対応できる場合もあれば、地形的に弱く災害の引き金になり得ることもあります。
「大雨」の予報を確認したら、安全の確認と備えを行いましょう。
次の章では大雨の、最近の傾向を見ていきましょう。
大雨は増えた?データで見る“極端な大雨”の傾向
「昔はこんなに降っていたっけ?」
そんな疑問を抱いたことがある方も多いのではないでしょうか。大雨が増えたのは、気のせいではありません。実際、「日本の気候変動2025」では、短時間に集中的に降る極端な大雨の発生頻度や強度が増加していると観測結果より報告されています。
極端な大雨の変化
最初の10年間(1976~1985年)と最近10年間(2015~2024 年)の変化の倍率を見てみましょう。
■グレー:最初の10年間 ■グリーン:最近10年間
平均年間発生回数(日数)の比
※平均年間発生回数(日数)はアメダス 1,300 地点当たりに換算した値
cc2025_honpen.pdf P37 表5-1.1
このように、強い雨ほど発生頻度の増加率が高く、一定の強さ以上の雨については、1980年頃と比べて約2倍に増加していると評価されています。
これは、大雨対策のために被害リスクを考える上で、見逃せないデータですよね。
では、今後の動きはどのように予測されているのでしょうか。
将来どうなる?大雨の“激甚化”予測
「日本の気候変動2025」では、工業化以前(1850~1900年 )の「100年に一度の大雨※」と比較して、短時間に集中的に降る極端な大雨が発生する頻度も降水量も増加すると予測されています。これには地球温暖化も影響しているとされています。※後ほど解説
世界平均気温の上昇と降水量の増加率
「100年に一度の大雨」とは
近年、目にする機会が増えた「100年に一度(一回)」という表現は、統計的な再現期間を意味しています。これは、「平均すると100年に一度の確率で発生」または「1年間にその現象が起こる確率が1%」ということです。つまり…
- 「昨年起きたから、当面は起きない」→ ❌
- 「数年連続で発生する可能性もある」→ ⭕
該当期間に発生する確率が100年に一度レベルの大雨が増加すると考えると、備えの大切さを実感しますね。
続いて、少し先の未来になりますが、20世紀末と比べた21世紀末の雨の降り方の変化です。
21世紀末(2076~2095年の平均)の雨の降り方
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2°C上昇シナリオ(RCP2.6)での予測 |
4°C上昇シナリオ(RCP8.5)での予測 |
1時間降水量50mm以上の 年間発生回数
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約1.8倍に増加
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約3.0倍に増加
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3時間降水量100 mm以上の 年間発生回数
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約1.8倍に増加
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約3.0倍に増加
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日降水量100 mm以上の 年間日数
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約1.2倍に増加
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約1.4倍に増加
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年最大日降水量の変化
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約12%(約13 mm)増加
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約27%(約28 mm)増加
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日降水量が1.0 mm未満の日の 年間日数
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(明確な変化傾向なし)
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約9.1日増加
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気象庁|日本の気候変動2025 —大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書—
20世紀末(1980~1999年の平均)と比べた21世紀末(2076~2095年の平均)の雨の降り方の変化(いずれも全国平均)
今から対策をしておいても無駄になることはなさそうです。ここまで、極端大雨が増加傾向であることをお伝えしてきました。
次の章ではその背景を確認しましょう。
なぜ大雨が増えている?温暖化と水蒸気の関係
大雨が増加する理由は、気温上昇による大気中の水蒸気量の増加があります。
まずは、雨が降るしくみを理解しましょう。(雨と大雨では、しくみや影響するものが異なる部分があるため、ここでは一般的な雨が降る仕組みを解説しています)
雨は、大気中の水蒸気が凝結して地上に落ちてくる現象です。
この「水蒸気」がポイントです。
空気は、気温が高くなるほどより多くの水蒸気を含むことができるという性質があり、気温が1℃上がるごとに保持できる水蒸気量が約7%増えるとされています。
気温上昇に伴い、雲の中に蓄えられる水分が増え、一度の雨がもたらす降水量が多くなります。その結果、極端な大雨の発生頻度や強度が増加する傾向が見られます。
予測を踏まえた“大雨対策”を
現在、極端な大雨は増加しており、今後もその発生頻度や強度がさらに高まると予測されています。大雨リスクが深刻化する中、企業としても「対策」の重要性はますます増しています。
将来予測には不確実性が伴いますが、だからこそ「備え」は、未来の被害を最小限に抑えるための最善の手段です。
私たちKTXは止水板メーカーとして、水害リスクを前提にした実用的な対策をご提案しています。
引き続き、皆さまの防災・減災計画に貢献できるよう取り組んでまいります。
なお、浸水対策には止水板以外にもさまざまな手段があります。下記コラムもぜひあわせてご覧ください。