雨の降り方、ちょっと変わってきていませんか?
昨年(2024年)7月末に、山形県・秋田県を中心に発生した記録的な大雨。
道路の冠水や住宅の浸水といった被害を、目にした方も多いのではないでしょうか。
ここ数年、日本各地で毎年のように「記録的な大雨」が発生し、日常生活を大きく揺るがすような災害が続いています。
その背景にあるのが、「線状降水帯」という気象現象です。
実は、近年発生している大雨災害の多くには、この線状降水帯が関与しているケースが多くなっています。
参考:津口 裕茂,2016,p11
気象庁のデータによると、全国で1時間に50mm以上の「非常に激しい雨」が降った回数は、最近10年間(2015~2024年)の平均年間発生回数(約334回)が、統計期間の最初の10年間(1976~1985年)の平均年間発生回数(約226回)と比べて約1.5倍に増加しています。
つまり、近年は局地的な大雨のリスクが高まっているのです。
私たちが普段過ごしている場所も、いつどこで同じような状況になるかわかりません。
だからこそ、線状降水帯について“知っておく”こと、そして“備える”ことがとても大切です。
このコラムでは、線状降水帯の仕組みや被害の実態、そして私たちができる備えについてわかりやすく紹介します。
ぜひ、日頃の防災対策の参考にしてみてください。
線状降水帯ってなに?
線状降水帯とは、発達した積乱雲が次々と同じ場所に発生し、線状に連なって停滞することで、長時間にわたって非常に強い雨をもたらす現象です。
どうして起きるの?
線状降水帯はおおむね以下のようなメカニズムで発生します。
- 大気下層を中心に大量の暖かく湿った空気の流入が持続する
- その空気が局地的な前線や地形などの影響により持ち上げられて雨雲が発生する
- 大気の状態が不安定な状態の中で雨雲は積乱雲にまで発達し、複数の積乱雲の塊である積乱雲群ができる
- 上空の風の影響で積乱雲や積乱雲群が線状に並び線状降水帯が形成される
国土交通省 気象庁「線状降水帯による大雨について」より引用
ただし、これは概要です。
メカニズムの詳細については、発生に必要となる水蒸気の量、大気の安定度、各高度の風など複数の要素が複雑に関係しており、不明な点が多いのが現状です。
そのため、線状降水帯の発生条件や強化、維持するメカニズムは未解明な点が多く、正確な予想が難しくなっています。
特徴は「局地的」「長時間」「予測が難しい」
線状降水帯による雨の特徴は、狭い範囲に猛烈な雨が集中し、それが何時間も続くという点です。
通常、積乱雲は1時間程度のあいだ局所的に強い雨を降らせた後、消滅します。
しかし線状降水帯では、一つの積乱雲が消えても、次々と積乱雲が発生するため、雨が途切れず長時間にわたって強い雨をもたらします。
このような状態が数時間にわたって継続することで、総雨量が極めて多くなり、深刻な災害を引き起こすのです。
気象庁では、線状降水帯による被害が深刻化していることを受け、
2021年からは「顕著な大雨に関する気象情報」、2022年からは「線状降水帯による大雨の半日程度前からの呼びかけ」という新しい気象情報の運用を開始しています。
「顕著な大雨に関する気象情報」(2021年〜)
これは、線状降水帯が発生した際に、気象庁が発表する注意喚起情報です。
気象条件が一定の基準を満たした場合に発表されます。
※1,2 キキクル(危険度分布):気象庁が提供する、大雨による土砂災害、浸水害、洪水災害の危険度をリアルタイムで地図上で確認できるサービスのこと
この情報は警戒レベル4相当以上の状況で発表され、発表時点ではすでに災害発生の危険性が非常に高まっている状態です。
つまり、この情報が出たときは「すぐに避難の判断をすべき段階」と考える必要があります。
気象庁 「防災気象情報と警戒レベルとの対応について」より作成
「線状降水帯による大雨の半日程度前からの呼びかけ」(2022年~)
もうひとつ、2022年からは「線状降水帯による大雨の半日程度前からの呼びかけ」も始まりました。
これは、線状降水帯が発生する可能性が高まっていると予測された場合に、心構えを一段高めてもらうことを目的として半日程度前から発表される予測的な情報です。
ただし、線状降水帯の発生を正確に予測することは非常に難しいため、この呼びかけがあっても必ず線状降水帯が発生するとは限りません。
とはいえ、呼びかけがあった段階で大雨となる可能性が高い状態であるため、その後に発表される「大雨警報」や「キキクル(危険度分布)」などの情報にも十分注意が必要です。
このような情報を正しく理解しておくことで、災害の兆しにいち早く気づき、早めの避難や安全確保につなげることができるので、うまく活用していきましょう。
では実際に、線状降水帯はどのような被害をもたらすのでしょうか?
どんな被害が起きるの?
線状降水帯による大雨は、次のような深刻な被害を引き起こす可能性があります。
主な被害例
河川の氾濫
河川の水位が上昇し、堤防から水があふれたり、堤防が決壊し浸水被害をもたらします。
短時間の大雨でも、支流や用水路があふれることがあります。
都市部での内水氾濫
下水道等の排水施設の能力を超えた雨が降った時や雨水の排水先の河川の水位が高くなった時に、雨水が排水できなくなり、下水道や水路、マンホール等から雨水があふれだし、道路や住宅が浸水します。
特に都市部では排水が追いつかず、玄関や駐車場が水に浸かることもあります。
土砂災害
山やがけが崩れたり、山腹や川底の土砂が雨水などと混じって一気に流れ出たりする現象です。
夜間の発生では避難が難しくなります。
交通のマヒ
道路が冠水したり土砂崩れが発生すると、通行止めになるなど交通機関の運行が乱れることがあります。
停電・断水・通信障害などライフラインへの影響
大雨の影響で送電線が倒れたり、電気設備が浸水すると、広範囲で停電が発生する可能性があります。また、水道管やガス管の破損、あるいは浄水場の浸水により、断水やガスの供給停止が起こることもあります。通信インフラが損傷すれば、電話やインターネットが使えなくなり、情報収集や家族との連絡が難しくなることも。
こうした事態に備え、モバイルバッテリーやラジオ、家族間の連絡手段の共有など、事前の対策が重要です。
これらの被害は、雨が降り始めてからわずか1〜2時間で一気に深刻化することもあるため、油断は禁物です。
また、これらの被害は同時多発的に発生する可能性が高いため注意が必要です。
私たちができる備えとは?
「災害への備え」と聞くと、少し大げさに感じるかもしれません。
けれど、線状降水帯のような急激な雨に対しては、ほんの少しの備えが大きな差を生むこともあります。
ハザードマップを確認しておこう
お住まいの地域にどんな災害リスクがあるか、自治体が公開しているハザードマップをチェックしておきましょう。
浸水・土砂災害・洪水など、自宅周辺で想定されるリスクを知ることで、避難の判断や行動につながります。
家族と避難行動の確認を
「雨がひどくなってきたら、どこに避難する?」「お年寄りや子どもがいる場合は?」など、家族で話し合っておくことが大切です。
夜間や突然の雨に備え、事前に決めておくだけで、いざというときの安心感が違います。
浸水対策の工夫もひとつの備え
玄関先などからの浸水に備えて、止水板を取り入れている方も増えています。
土のうよりも手軽で繰り返し使える製品も多く、急な大雨に備える対策として注目されています。
備えが安心につながる理由
線状降水帯は、予測が難しい分、突然やってくるリスクの高い現象です。
だからこそ、日頃のちょっとした備えが、災害時の安心と冷静な行動につながります。
「特別な場所で起きる現象」ではなくなってきている身近で起こり得る災害だからこそ、「備えること」は私たちができる最も現実的な防災対策です。
身近な防災の一歩として、今日できることから初めてみませんか?