2026年5月29日より「新たな防災気象情報」の運用が開始されました。
これは、複雑で分かりにくくなっていた「河川氾濫」「大雨」「土砂災害」「高潮」に関する情報等を『避難情報の5段階の警戒レベル』に対応させ、避難判断をしやすく改善したものです。
このように水害関連の避難情報に焦点が当たるということは、これらの災害の危険度・深刻度が増していることの裏返しにほかなりません。
実際に皆さんも、近年、「100年に一度の大雨」「観測史上最大の降水量」、あるいは「線状降水帯」「ゲリラ豪雨」などといった言葉を耳にする機会が増えていませんか?
そこで、本コラムでは、伊勢湾台風を始めとして、昭和57年7月豪雨、平成30年7月豪雨など、各地で大きな水害に繰り返し見舞われてきた日本の歴史を振り返り、ますます頻発化する水害について考える契機としてみたいと思います。
【1959年】伊勢湾台風
戦後日本の水害の中でも、特に甚大な被害をもたらした災害として記憶されているのが、1959年9月26日から27日にかけて日本に上陸した伊勢湾台風です。
この台風では、伊勢湾沿岸で高潮が発生し、愛知県や三重県を中心に広い範囲で浸水被害が発生しました。高潮によって海水が市街地や住宅地に流れ込み、多くの地域が水に覆われました。気象庁によると、伊勢湾台風は「高潮による被害が顕著」「台風による死者・行方不明者最大」とされており、日本の水害史において特に大きな災害です
人的被害は死者4,697人、行方不明者401人、負傷者38,921人に上りました。また、床上浸水157,858棟、床下浸水205,753棟という大規模な浸水被害が発生しました。
*栃木県日光市で観測
伊勢湾台風は、風雨だけではなく高潮によっても甚大な浸水被害が起こることを示した災害です。
この甚大な被害がきっかけとなり、国や自治体の防災責任の明確化、防災計画の策定、災害時の応急対策などを体系化した「災害対策基本法」が制定され、戦後の防災行政の原点となった水害です。
【1968年】第3宮古島台風
1968年9月22日から(熱帯低気圧に衰えた後も)27日にかけて日本に影響を及ぼした第3宮古島台風も、記録的な大雨をもたらした災害の1つです。
この台風は、西日本の南海上にあった前線の活動を刺激することで、九州東部・四国南部・紀伊半島南部に大雨をもたらし、三重県尾鷲市では、日降水量806mmが観測されました。
ちなみに、この日降水量806mmとは、現在でも日本の観測史上歴代4位に入る値となっています。(観測史上歴代1位は、2019年10月に神奈川県箱根で記録した922.5mm)
人的被害としては、死者11人、負傷者80人が確認されています。また、浸水被害は15,322棟にのぼり、強い雨による河川の増水や低地の浸水が発生しました。
*三重県尾鷲市で観測
この台風は、台風自体の通過に伴う、直接的な暴風雨による被害だけでなく、台風が少し離れた地域にも大雨被害をもたらしうる教訓をもたらした災害となっています。
【1982年】昭和57年7月豪雨と台風第10号
1982年7月10日から20日にかけての長雨、23日から25日かけての記録的な集中豪雨、そして8月2日に渥美半島に上陸した台風第10号の影響により、この年は、西日本を中心に広い範囲で大雨被害がもたらされました。
まず、7月10日~20日にかけては、ほぼ毎日、西日本のどこかで日降水量が100mmを超える大雨が続き、23日~25日には、長崎で時間降水量100mmを超える猛烈な雨が降り、土砂災害により市内を中心に300人の死者が出る大惨事となりました。(いわゆる「長崎大水害」)
また、8月の台風10号では、奈良県上北山村で、日降水量844mm(観測史上歴代3位の記録)が観測されるなど、近畿・北陸などでも大きな被害をもたらしました。
人的被害は、死者427人、行方不明者12人、負傷者1,175人に上りました。また、床上浸水45,367棟、床下浸水166,473棟という非常に大規模な浸水被害が発生しました。
*奈良県上北山村で観測
特に、この水害では、夜間に起こった急激な増水と避難の難しさが非常に多くの死傷者を発生させる原因となっており、「夜間避難の危険性の認識」と「暗くなる前の避難」の重要性を伝える教訓となりました。
【2000年】停滞前線、台風第14・15・16号(東海豪雨)
2000年9月8日から17日にかけて、停滞前線と台風第14号などの影響により、東海地方を中心に記録的な大雨となりました。東海地方を中心に約7万棟が浸水する大きな被害が発生し、名古屋市でも日最大降水量428mmが観測されました。
この豪雨の特徴は、台風が直接上陸したことによる被害ではなく、停滞していた前線に台風周辺の暖かく湿った空気が流れ込んだことで、前線の活動が活発になり、短時間で非常に激しい雨が降った点にあります。
人的被害は死者10人、行方不明者2人、負傷者118人に上りました。また、床上浸水22,885棟、床下浸水46,342棟という大規模な浸水被害が発生しました。
※三重県宮川村で観測
都市部で短時間に大量の雨が降ると、河川の増水だけではなく、排水能力を超えた雨水によって市街地で浸水被害が広がる恐れがあります。
この災害は、都市部における大雨への備えや、浸水対策の重要性を改めて示した事例です。
【2006年】平成18年7月豪雨
2006年の7月豪雨では、梅雨前線の影響により、九州地方をはじめ各地で大雨となりました。
この豪雨の特徴は、梅雨前線による大雨が一つの地域に集中しただけでなく、期間中に雨の中心が移りながら、広い範囲で記録的な降水となった点にあります。
7月15日から21日にかけては長野県や富山県で総降水量が600mmを超え、18日から24日にかけては九州で総降水量が1,200mmを超える地点もありました。鹿児島県阿久根市では24時間降水量622mmを観測し、長野県や鹿児島県を中心に、土砂災害や浸水害が相次いで発生しました。
人的被害は、死者28人、行方不明者2人、負傷者46人で、長く降り続く雨によって地盤が緩み、河川の増水で住宅地への浸水が発生しました。
*鹿児島県阿久根市で観測
この豪雨は、長期間降り続く大雨によって、土砂災害や浸水害が広い範囲で発生する危険性を示した災害です。
また、各地で避難勧告が出された一方で、避難途中に被災するケースもあり、豪雨時に「いつ?どのように?避難するか」という判断の難しさを課題として残した水害です。
【2018年】平成30年7月豪雨
近年発生した水害の中でも、特に大きな被害をもたらしたのが、2018年の平成30年7月豪雨です。
この豪雨では、西日本を中心に全国的に広い範囲で記録的な大雨となりました。6月28日から7月8日までの総降水量は、四国地方で1,800mm、東海地方で1,200mmを超える地点があり、7月の月降水量平年値の2~4倍となった地域もありました。
また、九州北部、四国、中国、近畿、東海、北海道地方の多くの観測地点で、24時間・48時間・72時間降水量の観測史上1位を記録しています。
人的被害は、死者237人、行方不明者8人、負傷者432人。
特に岡山県倉敷市真備町では、小田川などの堤防決壊により大規模な浸水被害が発生し、町に広い範囲が浸水被害にあいました。
*高知県馬路村で観測
平成30年7月豪雨では、大雨特別警報や土砂災害警戒情報など、危険を知らせる情報が発表される中でも大きな人的被害が発生しました。
この災害を教訓に、防災情報をより分かりやすく伝え、住民の早めの避難行動につなげるための見直しが進められ、2019年からは「5段階の警戒レベル」「住民の取るべき行動」が新設・運用開始されました。
【2021年】東海地方・関東地方南部の大雨
2021年7月1日から3日にかけて、東海地方や関東地方南部では梅雨前線の影響による大雨が発生しました。
この大雨の特徴は、数日間にわたって断続的に雨が降り続き、静岡県を中心に記録的な降水となった点にあります。静岡県の複数の地点では、72時間降水量が観測史上1位を更新し、この大雨により静岡県熱海市で土石流が発生したほか、河川の増水や低地の浸水も発生しました。
人的被害は、死者26人、行方不明者2人、負傷者11人です。神奈川県箱根町では大雨が観測され、山地では土砂災害の危険性も高まりました。
*神奈川県箱根町で観測
この災害は、大雨による土石流や低地の浸水が、人命や交通網、地域の生活に大きな影響を与えることを示した災害です。
また、熱海市で盛土が崩落し、大規模な土石流災害が発生したことなどを踏まえ、危険な盛土等を規制する「盛土規制法」の整備にもつながりました。
【2022年】8月の前線による大雨
2022年8月1日から6日にかけて、前線の影響により、東北地方や北陸地方を中心に大雨が発生しました。
この大雨では、8月3日夜に新潟県と山形県で線状降水帯が発生し、雷を伴った猛烈な雨が断続的に降り続きました。特に新潟県関川村下関では、3日午前3時から5日午前5時までの累計雨量が569mmに達し、1時間降水量149mmを観測しました。
この1時間降水量149mmは、新潟県内の観測史上最大値であり、全国でも歴代上位に入る記録的な雨量です。
*新潟県関川村で観測
東北・北陸など、比較的大きな水害が少ないと思われていた地域でも記録的な大雨が発生し、日本全国どこでも大規模な水害は起こりうること。そして、その備えが重要であるということ。を改めて印象づけた災害となっています。
【2024年】奥能登豪雨災害
2024年には、石川県の能登地方で奥能登豪雨災害が発生しました。
石川県の資料によると、2024年9月20日から23日にかけて、珠洲市、輪島市、能登町を中心とした奥能登地区を観測史上最大級の豪雨が襲いました。特にこの災害は、同年1月1日に発生した能登半島地震の被災地で起きたことが大きな特徴です。
地震被害の影響が色濃く残る地域に大雨が重なることで、土砂災害や流木による被害に加え、浸水被害、道路の冠水などが発生しました。
交通網の寸断などがより深刻になりやすく、同時に、続けざまの災害で、被災者の心や生活に蓄積されるダメ―ジの深刻さも増すことを示した災害です。
人的被害は死者16人、負傷者47人。
能登半島地震からの復旧が続く中で再び大雨災害に見舞われたことは、改めて、自然災害の厳しさと、複合災害への対応の難しさを強く印象づける事例となりました。
*石川県輪島市で観測
過去の水害を振り返ると、浸水被害は特定の地域や時代に限られたものではなく、台風・前線・線状降水帯など様々な要因によって、繰り返し発生していることがわかります。
特に近年は、短時間で道路や建物周辺が浸水するような大雨も増えており、被害が起きてから対応するのでは間に合わないケースも少なくありません。
だからこそ、日ごろからの備えが重要です。
最新の気象の変化に合わせて情報や知識をアップデートしつつ、過去の災害、そして対策の繰り返しの歴史を教訓として、今後もみんなで、防災意識の醸成に努めていきましょう。